物流業界では昨今、人手不足や「物流2024年問題」が問題視される中、運送会社は人件費の上昇や収益減少、賃上げの必要性などに直面しています。荷主企業(以下、荷主)も運送の賃上げ交渉を受けるケースが増えており、その影響範囲は大きくなっています。 今回は、数ある課題の中でも賃上げ交渉の課題と解決策について、主に中小企業・大企業の運送会社や荷主の経営・マネジメント層の方に向けて解説します。
1.物流2024年問題とは?
まずは物流業界全体で大きな課題となっている「物流2024年問題」の背景と現状を確認しておきましょう。
●物流2024年問題とは
物流の2024年問題とは働き方改革関連法の施行によって、2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働が上限960時間(1ヵ月あたりに直すと80時間)に制限されることに伴い発生する諸問題のことを指します。
例えば時間外労働への割増賃金率が上がることで人件費が上昇することや、それに伴う運賃値上げ、人手不足のさらなる深刻化による業務効率化の必要性などが挙げられます。
その影響範囲は運送会社、トラックドライバー、荷主のほか、その他の物流にかかわる関係各社全般に及びます。
問題が大きくなっている原因として、人材不足の深刻化やドライバーの高齢化、物流量増加などが挙げられます。
●予想される結果
物流2024年問題により、運送会社と荷主には次の結果が予想されます。
【運送会社】
・人件費上昇、収益減少、賃上げの必要性
・ドライバーの離職率の上昇
・業務負荷の過多
・労働時間の上限規制違反への罰則リスク
2023年4月からは、中小企業においても月60時間超の時間外労働への割増賃金率が25%から50%に引き上げられることから、労働時間の削減に努めなければ人件費が増すリスクがあります。またドライバーの賃金が低下することで、離職率が高まる可能性もあります。人手不足がさらに深刻になる中、短時間で労働を終わらせる必要があるため、より業務負荷が高まります。
時間外労働の上限規制に違反した場合には罰則があります。6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される恐れがあり、違反には十分注意しなければなりません。
【荷主】
・運賃上昇
・集荷時間の前倒し
・「荷主勧告」に該当するリスク
荷主にとっては、運送会社の賃上げへの対応のほか、時間外対応を削減する必要があるため、集荷時間の前倒し対応も余儀なくされることがあります。また、効率化を求めてトラックドライバーへの無理な要請を行えば、運送会社へ違反行為を促したことなどを理由に「荷主勧告」を受けるリスクもあります。
【関連コラム】
>「物流2024年問題とは?どう対処する?」
2.運送会社による賃上げ交渉の重要性
物流2024年問題を受け、運送会社は、人件費上昇や人材不足などから収益減少が見込まれるため、賃上げが重要な対策の一つとなります。賃上げ交渉を行わなければ、収益悪化や企業生命にかかわるリスクにつながります。運送会社の中には、荷主から高速道路料金を請求せず、ドライバーが負担しているケースもあるため、運賃と共に見直す必要もあります。
賃上げ交渉を行わなければ、他の対策を取る必要があります。例えば企業努力によるコスト削減や、賃上げに応じないことで取引を継続できない荷主企業からの撤退などが考えられます。しかしこれらは現実的ではないでしょう。
運送会社にとって、賃上げは重要な施策といえます。
3.賃上げ交渉の課題と対策
運送会社が賃上げ交渉を行う際に直面する課題と対策をご紹介します。あくまで提案となりますので、参考にしてください。
【課題】
●賃上げ交渉に応じてくれなかった
●賃上げ交渉に応じてくれたがわずかな額だった
●賃上げ交渉をしたら取引がなくなった
●賃上げ交渉をしたら取引量を減らされた
●そもそも賃上げ交渉ができる力関係にない
賃上げ交渉を行うに当たってはさまざまなパターンがあり、これらの課題が生まれるでしょう。
【対策】
対策として、交渉する際の工夫と交渉が失敗に終わってしまった場合や交渉できない場合の対応策をご紹介します。
●交渉時
・法律に伴う情勢変化の現状説明をする
物流2024年問題など法改正に起因するものや、人手不足などの現状から体制を変える必要があることなど、現状を説明する方法です。自社都合ではなく、業界の問題であることが荷主に伝わることで、理解が進む可能性があります。
・運賃の標準化
国は標準的な運賃の告示を行っていますが、それに倣い、自社も標準化を目指していることを伝える交渉も考えられます。
・内訳を示す
車両費、部品代、燃料費、人件費といった運賃の内訳を示すことで、荷主に納得してもらいやすくなることもあります。
・値上げを少額にとどめる
荷主の負担を極力なくすために、値上げを少額にとどめることも賃上げ交渉が成功しやすくなると考えられます。
●交渉が失敗に終わった場合や交渉できない場合
・コスト削減
コスト削減を目的に、配送方法を共同配送やモーダルシフトなどに切り替える方法もあります。
・運送効率を上げる、積載効率の見直し
少ない人員で、時間内に業務を遂行するために、運送効率を上げたり、積載効率を見直したりする業務効率化を行う方法もあります。
・DXによって生産性を向上させる
機器やシステムの導入やデータ活用を推進することで、業務改革を行うDXにより、業務効率化や省人化、生産性向上を目指す方法もあります。
・労働環境・条件の改善による人員確保
トラックドライバーなどの人員を増やしたり、離職を防ぐために、労働環境・条件の見直し・改善も一案です。
4.中小企業・大企業の運送会社、荷主はどう対応するべきか
中小企業や大企業の運送会社、荷主の経営層やマネジメント層は、それぞれ賃上げ交渉に関してどのように対応するべきでしょうか。次のことが考えられます。
●中小企業の運送会社
中小企業の場合、そもそも荷主に賃上げ交渉できない、取引終了になる、応じてくれないなどの結果に終わる懸念があります。また経営的なリスクから賃上げそのものを考えないことも多いでしょう。かといって、人件費を上げることや人員確保もむずかしいと考えられます。そこで最善策となるのは企業努力として、積載効率の見直しやシステム導入などを実施することにあると考えられます。
●大企業の運送会社
大企業の場合は、多くの場合、賃上げ額をわずかにとどめるなどして標準化をはかるケースが多いと考えられます。そのため、賃上げと同時に労働環境・条件の改善による人員確保、業務効率化、コスト削減、DXなど全般的な取り組みを進めることが重要です。
●荷主
荷主は、物流2024年問題の本質を理解し、物流業界全体の課題として受け止める必要があります。前述の通り、荷主勧告のリスクや集荷時間の前倒しなど、荷主に直接ふりかかる課題も出てくるためです。
課題解決のためには、各社の協力体制が必要と考えられます。とはいえ、賃上げに応じることは荷主にとって経営を圧迫するため、積載効率の見直しなど、可能な限りコストを削減できるように努めることが必要といえます。
日本トーカンパッケージでは、運送会社や荷主の方からの梱包や積載効率、パッケージのコストに関するご相談を数多く受け、それにご対応してきた実績があります。ぜひ直面されている課題についてご提案させていただきますので、お気軽にご相談ください。
5.まとめ
物流2024年問題に伴う賃上げ交渉の課題と対策をご紹介しました。いずれのケースでも、運送会社と荷主を含めた関係各社の相互理解と協力が大切と考えられます。
これからも賃上げの必要性は増していくと考えられます。したがって、対応策としての工夫や改善を地道に実施していくことが求められます。
今回ご紹介した物流2024年問題とその対応策について詳しく解説している資料「物流2024年問題まるわかりガイド」も合わせてご覧いただき、参考にしてください。